「共感」を考える ~人を相手にする職業に求められるコミュニケーション技術~
- ミヤタンコラム
はじめに
人を相手にする職業の看護師や介護福祉士には、与薬や入浴介助などの専門技術にくわえコミュニケーション力を高めることが求められます。なぜなら、対象者の肯定的な受け止めは援助への協力に繋がるばかりではなく、物事を安全に進めたり受けたサービスの満足度を左右したりするからです。
今回は、コミュニケーションの基本技術とされる「共感」について、授業内容の一部を紹介しながら考えてみたいと思います。
■友人への「共感」と援助職としての「共感」の違い
人を相手にする職業では、教育上「共感的理解」が必ず登場します。介護福祉士養成の授業でも「共感」の重要性について説明しますが、感情とは実に曖昧でうつろいゆくものであると同時に対象者の複雑な背景も知る必要があり、学生の理解を得るには難しさを感じます。
『援助職に必要な「共感」について述べよ』という問いに対して、「自分が困っているとき、友達が傍にいて共感してくれたことで救われた経験がある。とても嬉しい気持ちになった。援助職に就いた際には、そのような姿勢でいたい。」と回答する学生が多くいます。気持ちに寄り添ってくれる人の存在は、孤独を遠ざけ悲嘆や疲弊からの回復を早めてくれます。しかし、友人同士という限定的で自由な関係性では、相互の気持ちにズレを感じたら距離をおくことも可能ですし、負の感情に移入しすぎたら聴き手が心のバランスを乱してしまう恐れもあります。改めて、誰にでも平等に対応する援助者の役割責任を考えてもらいます。
■援助職の「共感」は相手の気持ちをくみとること
教科書には、「傾聴」「受容」「共感」の流れと共に細かな技法が述べられています。まず「傾聴」とは、「相手の話を聞きたい、相手を理解したい」という気持ちや熱意をもって「聴く」ことが前提です。「受容」とは、「相手の言ったことを否定も肯定もせず、評価を加えずそのまま受け入れる」ことです。そして、それらを経た「共感」とは、「相手が感じている感情を、その人自身になったつもりで、あたかも自分が感じているように感じる」よう努力することとあります。つまり、対象者を理解したいという熱意と受け入れようとする姿勢を基盤とし、対象者の立場や気持ち(感情)を想像する力が求められる技術なのです。授業では、事例をもとに「(対象者は)どんな気持ち?」と語りあいます。
得てして、対象者は理解された、あるいは受け止めようと努力してくれていることへの安堵感や期待感へと気持ちが変化します。そして援助職は、「(対象者は)なぜそんな気持ちになったの?」と背景に思いを巡らせます。このように、「共感」することで問題解決思考が発動し、対象者の困りごとが軽減すると共に気持ちが穏やかになることを援助者は目指すのです。
おわりに
「共感」とは、対象者の気持ちをくみとるとても専門的なはたらきかけです。年齢や性別をはじめ互いに違う価値観と感情をもった生き物ですので、理解に苦しむことや忍耐の必要なときもあると思います。援助者自身が困難を感じるときは、ひとりで抱え込まずチームで共有してください。
コミュニケーションでみせる援助者の誠意ある態度は、多くの信頼を得ることと思います。
※本日のテーマと関連する授業は、「コミュニケーション技術Ⅰ・Ⅱ」です。
<文献>
飯干紀代子(2022):介護福祉士養成講座5,コミュニケーション技術,中央法規,pp22-33.
武井麻子(2016):感情と看護 人とのかかわりを職業とすることの意味,医学書院,277p
プロフィール
- 所属学科
- 専攻科(福祉専攻)
- 職名
- 准教授
- 学位
- 学士(看護学、人間学)
- 専門分野
- 看護