不慮の事故を防ぎ、生活習慣が「生きる力」になるまで – 子どもの成長を喜び、守り、育てる視点 –
- ミヤタンコラム
1.子どもの成長はとても速い
子どもは毎日、驚くほどの速さで成長していきます。昨日できなかったことが、今日はできるようになるなど、小さな変化の積み重ねは、子どもの身体と心が確かに育っている証です。
保育者の仕事には、こうした成長の瞬間に立ち会い、その喜びを一緒に分かち合える魅力があります。
このように、子どもの成長は喜びに満ちたものである一方、その変化の速さゆえに、大人の関わり方や環境づくりが追いつかないと、思わぬ危険につながります。
2.「不慮の事故」について
子どもは、多くの危険に囲まれて生活しています。
転倒、誤飲、やけど、交通事故、水の事故、こうした「不慮の事故」は、特別な環境で起こるものではなく、家庭や園、日常の生活の中で突然起こります。
実際に、子どもの死亡原因を見てみると、「不慮の事故」が上位を占めており、成長と事故が常に隣り合わせであることが分かります。
子ども死因順位(2023年)
| 第1位 | 第2位 | 第3位 | |
| 0歳 | 先天奇形等 | 呼吸障害等 | 不慮の事故 |
| 1~4歳 | 先天奇形等 | 悪性新生物 | 不慮の事故 |
| 5~9歳 | 悪性新生物 | 不慮の事故 | 先天奇形等 |
人口統計資料集(2025)より
また、2017年から2021年の5年間での「年齢別に多い死亡事故」として、窒息、交通事故、不慮の溺水が「不慮の事故」死因の上位を占めています。
傾向は次のようにまとめられます。
年齢別に多い死亡事故の傾向
| ・「窒息」は、0歳で圧倒的に多く発生(ベッド内での事故) |
| ・「交通事故」は、2歳以上ですべて1位 |
| ・「溺水」は、1歳、5歳以上で2位
年齢別の詳細順位でみると3歳、5歳以上では自然水域での事故が上位 |
| ・「転倒・転落」について、「建物からの転落」は2~4歳が多い |
子どもの事故防止に関する関係府省庁連絡会議資料(2023)から筆者まとめ
年齢別に多い死亡事故の傾向の結果から分かるのは、不慮の事故が「特別な出来事」ではなく、日常生活の延長線上で起こっているという事実です。つまり、子どもの成長を支える環境そのものが、同時に事故のリスクにもなり得るということです。
こうした事故を「運が悪かった出来事」として片づけるのではなく、なぜ起こるのか、どうすれば防げるのかを考えることが重要です。
子どもは身体機能や判断力が発達の途中にあり、大人と同じ環境でもリスクの大きさはまったく異なります。
「これくらいなら大丈夫」という大人の思い込みを見直し、子ども目線で環境を整えることが事故予防の第一歩となります。
3.基本的生活習慣の獲得が子どもの安全と結びついている
子どもに社会に適応するための基礎的能力を獲得させる教育的な関わりを「しつけ」と呼びます。その中でも、基本的生活習慣を獲得することは、子どもにとっての安全な環境を構築することと深く結びついています。
たとえば、「早寝・早起き」「食事のリズム」「手洗い・うがい」といった習慣は、感染症予防や体調管理の基礎であると同時に、子ども自身が自分の体を大切にする意識を育てる重要な要素です。生活習慣が整うことで、集中力の向上や情緒の安定にもつながり、結果として事故のリスクも低減します。しかし、生活習慣が乱れると、眠気や体調不良によって注意力が低下し、危険への気づきが遅れることにもなります。また、子ども時代に身につけた生活習慣や安全意識は、その後の人生を支える「生きる力」となっていきます。
4.連携と情報の共有
「子どもを守るのは一人ではない」という視点も欠かせません。
保育・教育・医療・家庭が連携し、ヒヤリとした出来事や小さな変化を共有することが、重大な事故を防ぐことにつながります。
このように、子どもの安全を守るため、その中心となって子どもを見守る存在が、保育者です。
5.まとめ
子どもの健康と安全について考えることは、事故を防ぐためだけの学びではありません。
子どもの成長を喜び、その力を信じながら、安全に導いていくための学びです。子どもの育ちを一番近くで見守り、その未来を支える存在として、健康と安全の視点をもつことは、保育者を目指すうえでの大切な第一歩となるでしょう。
※本日のテーマと関連する授業は、「子どもの健康と安全」です。
参考文献
1. 大西文子・他(2022)『子どもの健康と安全 改定第2版』中山書店.
2. 国立社会保障・人口問題研究所(2025)「表5-23 性,年齢(5歳階級)別死因順位:2023年」『人口統計資料集』国立社会保障・人口問題研究所.
3. 消費者庁消費者安全課(2023)「⼦どもの不慮の事故の発⽣傾向:厚⽣労働省「⼈⼝動態調査」より」『⼦供の事故防⽌に関する関係府省庁連絡会議資料3-1』消費者庁.
